耳鼻咽喉科の薬物療法



耳鼻咽喉科領域の抗菌剤選択

小林耳鼻咽喉科内科クリニックでは耳鼻咽喉科領域の抗生剤を世界的に定評のある「サンフォード感染症治療ガイド」に基づいて選択しています。同時に学会作成の治療ガイドラインも参考にしています。

副鼻腔炎の治療に用いる抗菌剤

急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎では抗菌剤の選択が大きく異なります。薬剤は略称で表示してあります。クリックすると抗菌剤一覧で確認できます。

急性副鼻腔炎の薬物療法を考えるための臨床状況

  • 抗菌薬治療が必要となることはまれ.
  • 急性副鼻腔炎は通常,ウイルス感染またはアレルゲン曝露による炎症から生じた副鼻腔口の閉塞治療は経口溶液および生食による鼻洗浄を行う
  • 示唆する臨床的特徴は以下の通り
  • アレルギー性,ウイルス性,細菌性に共通する症状:顔面圧迫感,前頭部頭痛,嗅覚消失,鼻閉,後鼻漏症状
  • アレルギー性副鼻腔炎に多くみられる特徴:慢性的な透明な鼻漏,発熱なし,くしゃみ,目のかゆみ
  • ウイルス性副鼻腔炎に多くみられる特徴:7~10日で改善あるいは改善に向かう,発熱がないこともある
  • 真の細菌性副鼻腔炎に多くみられる特徴:①発熱および症状が10日以上続く②上顎の歯痛③最初の症状が治まると他の症状が悪化する④嗅覚異常(鼻の中の悪臭感覚)⑤片側の顔面痛
  • 微生物学的診断ができることはまれ.治療処方は経験的で,上顎洞穿刺検査でもっとも多くみられる病原体に焦点を絞ったもの

急性副鼻腔炎の薬物療法
急性副鼻腔炎の薬物療法

  • ペニシリンアレルギーがない場合①小児:AMPCAMPC/CVAのいずれか、投与期間10~14日②成人:AMPC/CVA、投与期間5~7日
  • ペニシリンアレルギーがある場合①小児:アナフィラキシーの場合CLDM  投与期間10~14日・アナフィラキシー以外CPDX-PRCFDN②成人:アナフィラキシーの場合LVFXまたはDOXY・アナフィラキシー以外CFDNCPDX-PR
  • 上記治療で効果がない場合:①上顎洞洗浄の考慮②軽症/中等症ではCFDN CPDX-PR③重症例ではGFLXLVFXMFLX 上の写真は急性副鼻腔炎の単純画像(右の上顎洞が白い陰影となっている)

慢性副鼻腔炎の薬物療法

慢性副鼻腔炎の薬物療法

  • マクロライド系抗菌剤の小量長期投与を行う。
  • ガイドライン(試案)に基づく投与方法:①投与薬剤 EM・CAM・RXM②投与量:下表参照③投与期間:・3か月の投与で無効な場合他の治療法に変更。・有効な場合でも投与期間は連続で3~6カ月。・症状再燃に対し再投与は可。④以下の場合、効果が上がりにくいとされ、手術を含む他の治療法への変更を考える。・Ⅰ型アレルギー性炎症が主体である症例・中鼻道が高度に閉塞している症例・大きな鼻茸を有する症例・長期投与中の急性憎悪⑤副作用の報告はほとんどない。 上の写真は鼻茸の内視鏡所見(インターネットより引用

薬剤
1日の投与量
EM成人400~600mg

小児8~12mg/kg
CAM 成人200~400mg

小児
4~8mg/kg
RXM成人150~300mg

小児急性中耳炎診療ガイドラインにもとづく抗菌剤の選択

  • 症状と鼓膜所見を点数化し中耳炎の重症度を判定する(中耳炎重症度スコア)。
  • 重症度に応じ治療法を決定する。
  • 軽症(重症度スコア5点以下)では、①抗菌剤の投与は行わず3日間自然経過を観察(推奨度A)。②軽症例における抗菌剤投与による鎮痛効果は不明である(推奨度I)。③3日間の経過観察で改善が認められない場合AMPC常用量5日間の投与(推奨度A)。④AMPC常用量5日間の投与で改善が認められない場合 AMPC高用量・AMPC/CVACDTR-PIの5日間投与(推奨度A)。⑤耳痛・発熱に対してはアセトアミノフェン10mg/kgの頓用(推奨度A)。
  • 中等症(重症度スコア6~11点)では、①AMPC常用量5日間の投与(推奨度A)。②鼓膜所見が高度の場合には鼓膜切開の検討。この場合耳漏の細菌検査が推奨される。③AMPC常用量5日間の投与で改善が認められない場合、以下のどちらかを選択・AMPC高用量・AMPC/CVA・CDTR-PIの5日間投与(推奨度A)。細菌検査結果に基づくことが推奨される。・鼓膜切開とAMPC常用量5日間の投与の併用④上記で改善が認められない場合、以下のどちらかを選択・鼓膜切開とAMPC高用量またはAMPC/CVA5日間投与・ABPC 150mg/kg/日分3点滴,または CTRX 60mg/kg/日分2(未熟児,新生児は50mg/kg/日以下)で点滴3日間が推奨されている。

扁桃炎に対する抗菌剤の選択

  • 原因菌としてはA群βStreptococcus(S.Pyogenes)が問題となる。
  • 治療の目標は症状の軽減,化膿性合併症の予防,伝播の抑制,急性リウマチ熱の予防を行うことである。急性リウマチ熱は現在でも世界中の多くの地域で,特に小児において問題となっている。
  • 咽頭痛のある成人患者でGASが原因菌である割合は約10%。

耳疾患の薬物療法

突発性難聴に対する薬物療法

突発性難聴に対する薬物療法

  1. 内耳の音を感じる感覚細胞の突然の障害で起こるのが突発性難聴です。診断は厚労省研究班突発性難聴診断の手引(1973)を用いて行います。
  2. 突発性難聴の治療予後に影響を与えるもの文献1による):①発症時の難聴の程度は治療効果に影響を与える。②治療の開始時期は予後に影響する。③めまいを伴う症例では予後が悪いとされる。もっと詳しく知る 上の写真は内耳にある音を感じる細胞(黄色)の電子顕微鏡写真

3. 治療

  • 様々な薬物療法が試みられるが、根拠の明確な治療は少ない。
  • 現在、有効と考えられる治療:①ステロイド点滴あるいは内服②ビタミンB12製剤③ATP製剤
  • その他の治療:①高圧酸素療法②星状神経節ブロック③プロスタグランディン製剤④低分子デキストラン

急性低音障害型感音難聴に対する薬物療法

急性低音障害型感音難聴に対する薬物療法
急性低音障害型感音難聴の特徴

  • 急に起こる低音域感音難聴
  • 難聴は一側性が多い。
  • 難聴の程度は軽度ないし中等度
  • 回復しやすいが繰り返すことがある。
  • 女性に多い。
  • 30~40歳代の若い年齢層に多い。
聴力像での急性低音障害型感音難聴の診断

  • 低音域(125Hz~500Hz)の聴力域値の合計が100dB以上
  • 高音域(2000Hz~8000Hz)の聴力域値の合計が60dB以下
  • ただしこの基準にあてはまらない症例もあるとされる。

急性低音障害型感音難聴の治療

  • 薬物療法が中心。
  • ステロイド内服
  • ビタミンB12製剤
  • ATP製剤
  • 浸透圧利尿剤内耳の模型。
上の写真説明:蝸牛(かたつむりの形をしている部分)に音を感じる感覚細胞が存在する。

ステロイド依存性難聴に対する薬物療法

急性感音難聴に対する薬物療法

  • 比較的急性に起こる難聴は、突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、ステロイド依存性難聴以外にも原因不明のものを含め数多くありますが、治療はおおむね突発性難聴に準じて行われます。
  • これらの中には原因・経過などに特徴的なものがいくつかあります。

薬物による感音難聴

アミノ配糖体抗生剤による感音難聴

  • 高音域を中心とするほぼ両側同程度の感音難聴
  • 聴力検査は高音漸傾型あるいは急墜型を示すことが多い
  • 進行すると中・低音域まで難聴が進行する
  • 薬物によっては平衡障害を合併することがある
  • 利尿剤との併用が障害を強くさせるといわれる
  • 一般的には障害の出現は服薬量に依存するといわれるが、個人差が大きく、ごく少量で障害が出現する場合もある。
  • 治療は難しく、予防に心がける
  • 急速静注や1日1回投与など投与方法の工夫
  • アミノ配糖体抗生剤副作用に対する軽減効果のある抗生剤(FOM)との併用。
抗ガン剤シスプラチンによる感音難聴

  • 聴覚障害は会話音域の周波数までおよぶことは少ない。
  • 難聴よりも耳鳴・耳閉感を訴えることが多い。
  • 聴覚障害は可逆性であることも少なくない。

音響外傷・騒音性難聴

強大な騒音による聴力障害を音響性聴力障害といいます。音響性聴力障害には、①予期しない突発的な強大音を聴くことによって瞬時に難聴となる音響外傷。②意識して聴いた、あるいは聴かされた強大音の短時間曝露によって曝露後に難聴になる急性音響性難聴。③ロック、ポップスなどのコンサートやディスコに行った後に発症する急性感音性難聴はディスコ難聴と呼ばれる。

音響外傷

  • 強大音による内耳聴覚機構の破壊により起こる。
  • 瞬間的あるいは短時間の強大音の曝露と同時に発生が急であることが特徴。
  • 音響曝露の直後から耳閉塞感・難聴が出現、耳鳴も伴うことが多い。
  • めまい・耳痛を伴うこともあるが一過性のことが多い。
  • 一般に難聴は高度で、内耳性の障害である。
  • 通常強大音に曝露された片側が障害されるが、音源の位置により両側に起こることもある。この場合でも難聴の程度は通常左右非対称。
  • 発症早期に治療を開始すれば聴力改善、あるいは治癒することがある。
  • 自然治癒もあるとされるが、確認はされていない。

好酸球性中耳炎の薬物療法

好酸球性中耳炎の診断基準(案)

大項目
中耳貯留液に好酸球が存在する滲出性中耳炎または慢性中耳炎
小項目
①にかわ状の中耳貯留液
②気管支喘息の合併
③好酸球優位な鼻茸の合併
④従来の治療(抗菌薬、鼓膜切開、鼓膜チューブ留置など)
好酸球性中耳炎確実例:大項目+小項目2つ

好酸球性中耳炎の臨床的特徴

  • 気管支喘息・副鼻腔炎が好酸球性中耳炎に先行して発症する。
  • 好酸球性中耳炎の90%で気管支喘息を合併する。
  • 成人発症型喘息・アスピリン喘息に合併することが多い。
  • 好酸球性中耳炎の74~85%の症例で副鼻腔炎を合併し,好酸球性副鼻腔炎の10~30%が好酸球性中耳炎を合併する。
  • 鼓膜穿孔の有無による分類:滲出性中耳炎型:54%,慢性中耳炎型:46%(うち26%は肉芽型)
  • 初期には伝音難聴を呈するが,経過とともに48~73%に骨導値の悪化をきたし,聾となる例が6~21%ある。
  • 耳漏のスメアまたはホルマリンに固定した貯留物や,肉芽組織に多数の好酸球浸潤を認める。
  • CTでは初期には耳管鼓室口を中心にした下・中鼓室の陰影がみられる。進行すると乳突洞,乳突蜂巣にもびまん性陰影を認める。骨破壊はない。
  • 末梢血好酸球は平均12.1%とやや高値である
  • 一般的な中耳炎の治療は効果がないことが多く、副腎皮質ステロイドが唯一有効とされる。

耳鳴りの薬物療法

内耳機能の改善を期待する薬剤

薬効分類名薬剤名と特徴
末梢性神経障害治療剤メコバラミン製剤
(メチコバール)
最も投与される耳鳴治療剤
代謝賦賦活剤ATP製剤(アデホス)
抗めまい薬としての適応がある
副腎皮質ホルモン剤プレドニゾロンなど
(プレドニゾロン
  プレドニンなど)
急性の難聴・耳鳴の治療
合剤ニコチン酸アミド・パパベリン
(ストミンA)
耳鳴治療に保険適応

耳鳴増悪因子を改善させる薬剤

薬効分類名薬剤と特徴
睡眠導入剤睡眠障害の型に応じて
様々な導入剤が用いられる。
筋緊張改善剤エペゾリン塩酸塩
(ミオナール)
チサニジン塩酸炎
(テルネリン)
アクロクアロン
(アロフト)
頚肩腕の筋緊張の変化が耳鳴
を変化させる臨床データ

精神安定を促す薬剤

薬効分類名薬剤と特徴
精神安定剤エチゾラム
(デパス)
頚肩腕の筋緊張低下の作用もある
抗不安剤アルプラゾラム
(ソラナックス)
パニック障害に有効
持続性心身安定剤ロフラゼプ酸エチル
(メイラックス)
血中濃度の半減期が長い
SSRI剤パロキセチン塩酸塩・塩酸セルトラリンなど
(パキシル・ジェイゾロフトなど)
新世代の抗うつ剤 エビデンスあり

経験的に耳鳴りの治療に用いられる薬剤

薬効分類名薬剤と特徴
抗てんかん剤カルバマゼピン
テグレトール
最近の臨床データでは効果に疑問
抗痙縮剤バクロフェン
ギャバロン
効果は未定。経験的
漢方薬効能または効果に耳鳴りが記載された漢方はない
耳鳴りの増悪因子を考えた漢方薬の経験的投与

キシロカイン静注療法

  • キシロカインは局所麻酔剤であり、不整脈治療剤でもある。
  • ゆっくりと静注する。
  • 作用部位は蝸牛・中枢神経系と言われるが確定的ではなく作用機序は不明。
  • 有効率は40~80%と報告されるが、当院の使用経験ではではほとんどの患者さんで効果が認められる。
  • 効果の持続は短く数分から10分程度ことが多いが、90~120分持続することもある。
  • 反復することで有効率が上昇し、持続時間が長くなることが多い。
  • 副作用はほとんど心配ないが、静注最中に頭や耳の圧迫感、舌のしびれを感じることがある。

鼻疾患の薬物療法

アレルギー性鼻炎の薬物療法

アレルギー性鼻炎では重症度により治療法を決定します。

アレルギー性鼻炎重症度判定

アレルギー性鼻炎の重症度判定
アレルギー性鼻炎症状の評価

アレルギー性鼻炎に用いられる薬剤

薬効分類効果の発現期間効果
(くしゃみ・鼻汁)
効果
(鼻閉)
連用効果
眠気


抗アレルギー薬






 ケミカルメディエーター遊離抑性薬2週間
効果はマイルド 副作用は軽微
 ケミカルメディエーター受容体拮抗薬






    抗ヒスタミン薬






       第1世代抗ヒスタミン薬10~20分なし++抗コリン作用のため緑内障・前立腺肥大には禁忌
       第2世代抗ヒスタミン薬1~2日
++

あり
現在の薬物療法の中心薬 抗コリン作用なし
    トロンボキサンA2拮抗薬
ピークまで
4~8週間
++なし鼻づまりの改善に効果
    ロイコトリエン拮抗薬1週間++なし鼻づまりの改善に効果
  Th2サイトカイン拮抗薬1~2週間++あり他の薬との併用による効果の増強
ステロイド薬






  局所用ステロイド噴霧剤1~2日
++
++
なし

すべての症状に効果 ステロイドの副作用は少ない
  経口ステロイド薬






    ステロイド薬単独1~2日
++
++
なし

すべての症状に効果 ステロイドの副作用に注意
    セレスタミン配合薬10~20分++

なし

ステロイど第1世代抗ヒ剤の合剤 副作用に注意
自律神経作用薬






  α交感神経刺激薬数分
+++
なし

一過性の鼻閉改善 連用に注意
  α交感神経刺激薬ステロイド合剤数分++
+++
あり
鼻閉改善 短期間にとどめる
配合剤






  第2世代抗ヒ剤・自律神経作用薬
++
++
なし±2種薬の配合ですべての症状に効果

通年性アレルギー性鼻炎の薬物療法


軽症
中等症(くしゃみ・鼻漏型)中等症(鼻閉型)重症(くしゃみ・鼻漏型)重症(鼻閉型)
推奨される薬剤①②⑤⑥①②⑥③④⑤⑥⑧②⑥③④⑥⑦⑧
選択方法上記いずれか1つ

上記いずれか1つ、

必要に応じ、

①あるいは②に⑥を併用

上記いずれか1つ

必要に応じ、

③④⑤に⑥を併用

②と⑥の併用

③あるいは④に⑥を併用

もしくは⑧の単独

治療開始時に短期間⑦併用

番号はアレルギー性鼻炎に用いられる薬剤の表の右端の番号を示す。